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【Tシャツ】「17:24」の渋谷で気づいた気持ち -1st page series-

¥4,000 税込

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使いやすいダークグレーのボディに写真がプリントされたTシャツ。

これ一枚でも様になるだけでなく、インナーとしても合わせやすく愛用していただけるかと思います。

生地はコットン100%で肌触りも良く、抗菌防臭、制菌加工で汗や室内干しの匂いを大幅に軽減されており、透けにくい素材となっています。

素材 : コットン 100%
カラー : ダークグレー
サイズ : S / M
[サイズ S] 着丈 68cm / 身幅 56cm / 肩幅 51.5cm/ 袖丈 19.5cm
[サイズ M] 着丈 70cm / 身幅 58cm / 肩幅 53cm/ 袖丈 20.5cm


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the story for this item
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「17:24」の渋谷で気づいた気持ち

「わぁ、ここすごいね。スクランブル交差点が丸見え。やばい」
 エスカレーターをのぼりながら、拓也が嬉しそうに言った。目の前のガラスに頭をぶつけそうな調子で、下を覗いている。
 拓也はすぐに感情を言葉にする。私には、そんな彼が時々眩しく感じることがある。私が思ったことを口にすると、大抵周りの空気を凍りつかせてしまうから。
 彼の黒のリュックには、今流行りのアニメのキーホルダーがぶら下がっていた。なんか、呪いとかそういう穏やかではない漢字が並んでいるアニメで、最近みんなが話題にしている。
「亜紀も見てよ」
「ん」
 私は返事をしながら、ガラスに顔を近づける。
 渋谷スカイができてから随分時間が経つというのに、ここに来るのは初めてだった。いつでも行けるからこそ、逆に来なかった。というか、みんなが盛り上がっているものになんとなく寄り付きたいくないという思いもあった。大学のみんな、ここでTikTok撮ってたし。
 私はいつからこんな性格になったんだろう。
 ここからはまるでジオラマみたいに見えるスクランブル交差点を眺めながら考える。
 大学生になった私は、昔より上手くやれていると思った。中学や高校の頃、こんな性格の私は誰にも見向きもされなかった。みんなと同じでいられない人は、空気の読めない楽しくないやつとして扱われる。草むらでひっそり風が吹くのを待っているたんぽぽみたいに、いないのと同じ扱い。
 それが大学生になると、途端に何でも許されるようになっていた。たった一年の違いなのに、みんなこれまで着ていた重りを脱ぎ捨てたみたいに自由で寛容になる。大学生って不思議だ。同級生を下の名前で呼ぶことさえ、少し前までは許されることではなかったというのに。
「亜紀、こっちは東京タワーが見える」
 拓也はそう言って歩いていく。
「拓也、待ってよ」
 彼は一瞬振り返って微笑んでから、また私に背を向ける。
 出会った頃からずっと呼び捨てにしているけれど、私は未だに彼を呼ぶときに、格好つけているような気持ちになる。これまでしたことなかったのに、こんなの当たり前だってふりして呼び捨てしているのが、滑稽だと思う。
 今日は本当はもう一人先輩が合流するはずだったけれど、その人は昨日飲みすぎて頭が痛いらしく、直前に連絡があって来なくなってしまった。飲み過ぎが欠席の理由になるのも大学生の特権だ。
「見てあそこ、ネットがかかってる。寝転ぼうよ」
 空の下、斜めにネットがかけられていて、寝そべることのできるスペースがあった。ああ、これTikTokで見たやつだと思う。
「えー、なんかバカっぽいじゃん」
 と、一回拒否してみたが、
「せっかく来たんだから、一回くらい」
 と言って拓也はリュックを前に抱き抱えて、ためらいなくネットに体を預けた。
 私なら絶対にこんなところに寝転べない。どうして拓也は、どんなことにも隔たりを感じずにいられるのだろう。そのアニメのキーホルダーだってそうだ。流行りを、抵抗なく自分のものにできる。
「ほら、どうぞ」
 ネットの区切られたスペースの中で、拓也がわざわざ端っこに寄って寝転んだから、私はその空いたスペースに寝転ばざるを得なかった。
 渋々寝転んでみたら、視線の先には空が広がっていた。少しオレンジがかった淡い色の空は、何もかもを吸い込んでしまえそうに思えた。
「どう? よくない?」
 拓也は隣で無邪気に言った。確かに背中に当たるネットの感触も、柔らかくて心地いい。
「うん。なんか、いいね。ずっとこうしていられそう」
 少しずつ、でも確かに、長い時間をかけて作った壁が溶けていくようだった。
「もうしばらくしたら、夕焼けになりそうね」
 そう私が言うと、拓也は空を見上げて「ほんとだ。来てよかったな」と言った。
 私は拓也といると、これまでとは違う自分に踏み出せるような気がする。手を引かれ、半ば無理矢理でも、たたらを踏んで足が進む。こうやって下手くそな歩き方で何歩も進んでいくうちに、本当に新しい自分に辿り着けるような気がしてくる。
「私たち、恋人同士に見えるのかな」
 私はつぶやくようにそう言った。
 だけどその瞬間、沈黙した彼から、戸惑いの空気が痛いくらいに伝わってきた。ああ、失敗したな。こんなこと言うつもりじゃなかったのに。私はすぐに言葉を続けた。
「いや、周りがカップルばっかだからさ」
 焦って言った私の言葉は、広い空にうまく吸い込まれてくれない。
「亜紀ちゃんに俺は釣り合わないよ」
 スパン、とキャッチャーミットにボールを投げ込むように拓也は言った。 
 一瞬、頭が混乱する。
 それ、どっちが釣り合わないって意味だっけ。拓也が上ってこと? いや、拓也はそんな傲慢な言い方するタイプじゃないよね。
 じゃあ。
「何、私のこと、そんなに評価してくれてるの?」
 私は平静を装ってそう言った。
「だって亜紀ちゃんかわいいもん」
「なんだそれ。チャラいな」
 私の言葉に、チャラくねぇよ、と拓也は笑って言う。
 太陽が東京のビル群の向こう側に傾いていく。心地よい風が吹いて、雲の形が変わっていく。
 私の心にも、綿毛が飛んでいきそうな、柔らかい風が吹いている気がした。

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